酉のターン

帰り途、『ビージャン』増刊号で「大分トリニータ物語」を読んだ。続編。
『サカひひょ』からいつか引用しようと思ってた大分コールリーダーとマルハン韓昌祐会長のエピソードもしっかり盛り込まれてた。あ、原作・木村さんじゃんか。

思えば今年は大分のターンだった。逆境こそごちそうとかいう社長にはグルメ三昧でおなかいっぱいの年だったのではないだろうか。清水が勝てる物語はなかった……とまるで後付けだけど言ってみる。

それでも狭いようで広い国立のゴル裏を酉サポだけで埋められる気がしなかったので、一週間置いてゴル裏のチケを買ってみた。一時間前に着いた国立のそこはまだ満席になってなかったどころか、結果、座った両脇の隣もKOギリギリまで空いたままだった。
コアから二ブロック隣の最上段近いそこは家族連れやカップルが目立つどころか私服組が目立たないくらいのスタンドな空気が流れてた。

人口では4:6で劣勢か。応援では3:7で負けていたと思う。後ほど、国立は初めてだったと聞いて得心。誰も彼もが慣れてなかった、気がした。三年前、いや、十年前のうちだ。

いや、それは言い過ぎた。大分はよっぽど学んでいたと思う。試合前に配られた青または黄のボード。試合中に回収されたそれら。運んだのはうちらでいうと団体さんの若者か? 一所懸命動いてた。気になるはずのフィールドも見るまいと必死でこらえるような彼ら。手伝わないわけにはいかないじゃんか。

それでもまわりの声は出てなかった。試合が始まってもゴル裏ではなくスタンドだ。きっと歌ったことがないんだろう。そこを乗り越えるのがしんどいんだよなあ。
もちろん自分には知らないコールにわからないチャント。応じられるのは手拍子だけ。もちろん、よいプレイへの拍手は欠かさずに。心持ち大きく強く、響くように。

清水の応援力は見事だった。橙の大小のフラッグで形作ったゆらめく炎のトロフィーにまわりの酉サポは素直に感嘆の声を上げていた。弾むリズム、煽る声、日本平以上のものを感じたくらい。ま、人数も単純に多かったけど。
同じタイミングで上下し、揺れるカラダ。始終跳ねてなくてもよいと教えてくれるメッセージ。

ハーフタイム。大分のコールリーダーが大分弁交じりで訴えてた。諭すように、乞うように。声出てないぞ、応援、清水に負けてるぞ。そのとおりだ。切実だった。

ウェズレーの伸びるシュートが弾かれる。その少し前からモーメンタムが移ってきた。そもそも前半もチャンスは大分に多かったと思う。拾い、奪い、カウンターからのゴールへのチャンス。

1-0。エースってヤツはこういうところで決めるんだ。歓喜。便乗してのハイタッチ、よそごとなのにうれしくなる。健太対ペリクレス……すっげー名前だなあ。健太、名前で負け。サイドでの攻防への修正は全体の局面を変えるに如かず。絵に描いたようなウェズレイのゴールで終わる。2-0。

終了前、ごル裏が掲げたタオマフ、そして穏やかなチャント。必死に、しかし、落ち着いてボールを回す選手たち。笛が鳴る。一瞬の静寂の後の大歓声、黄と青の紙テープが舞う。よろこび慣れず、所在なさげにさえ見える酉サポに2005年のオレらが重なってくる祝祭の空間。まいる。あぁ、優勝してー!!

初めはキョドって見えたニータンが王冠とマントをまとって堂々と見える不思議。カップを抱えてやって来た韓昌祐会長。自然に湧き上がるマルハンコール。やっぱし、今年は、今日は大分のターンだった。2008年11月1日。